先日うち薬局の患者さんで初めてテリボン皮下注オートインジェクターが処方された方がいらっしゃいました。
※テリボン皮下注オートインジェクターについてはメインブログの記事をご参照ください ⇒ テリパラチド製剤はテリボン皮下注オートインジェクターの一択でしょ!
3ヶ月分処方されており、病院からは「薬代が高いので、かなりの負担になる」と言われていたそうですが、薬局の窓口の支払いは18000円でした。患者さんも「あれ?思ったより安くない?」と質問してきました。この理由は高額療養費制度が適応されたことによります。今回の記事で高額療養費制度の紹介をしますので、今後高額な医療費がかかりそうな時はぜひ活用して欲しいと思います。
高額療養費制度とは同一月内に支払う医療費が一定以上になった場合、それ以上の負担はしなくてよい制度です。正確には同一月内に、同一医療機関に支払う自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、払いすぎた分の自己負担分が償還される仕組みです。ここまでは知っている人が多いですが、このブログではもう少し詳しく掘り下げてみます。
まずは同一医療機関についてです。つまり1ヶ所の病院に1ヶ月に支払う医療費に上限が設けられているということです。

例えば月の自己負担が限度額が57600円だった場合、それぞれの病院で支払う限度額が57600円ということになります。つまり通っている病院が1ヶ所なら自己負担額は最大57600円で済みますが、例えば4ヶ所の病院に通っていて、それぞれ月の支払いが20000円だった場合、どれも上限額の届きませんので、高額療養費制度は受けられません。この事実は忘れないようにしましょう。
※総合病院で同一月内の複数の科にかかった場合、それは1つの医療機関ですので、全部の科で支払った窓口負担額の合計が自己負担限度までとなります。ただし歯科だけは別扱いとなります。
続いて自己負担限度額について見てみましょう。
自己負担限度額は年齢、所得によって異なります。(年齢は70歳未満、70歳以上に分けられます)
70歳未満の自己負担限度額は以下のようになります。

例えば区分ウの人が医療費100万円(総医療費であり、自己負担額ではありません)の場合、 80100+(1000000ー267000)×1%=87430円 となります。
なお上の表のカッコ内がマイナスになることはありません。
例えば区分ウの人が医療費20万円だった場合
80100+(200000ー267000)×1%=79430円 とはならないという事です。
区分アなら842000円以上、区分イなら558000円以上、区分ウなら267000円以上でないと、高額療養費制度の対象にはなりません。区分ウの式は 80100+(医療費-267000)×1% となっていますが、この80100円とは267000円の3割からきています(区分ア、イでも同様です)。つまり区分ウなら「医療費267000円を超えたら、その267000円の3割を超えた分は1%だけでよいですよ」という意味でこの式ができています。
また 直近12か月間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降の自己負担限度額は上限額がさらに安くなり、下記のようになります。(これを多数回該当といいます)

多数回該当は同一保険者・同一被保険者での適用となります。つまり途中で保険者が変わってしまった場合はカウントがリセットされますので注意しましょう。
高額療養費制度は同一月内に、同一医療機関にかかったとしても入院と外来の扱いは別になります。例えば区分ウの人が入院費として100万円の医療費(自己負担30万円)がかかり、退院後、入院費の支払いと同一月内に外来受診で医療費6万円(自己負担1.8万円)かかったとしましょう。この場合の計算方法は
入院: 80100+(1000000ー267000)×1%=87430円
外来: 高額療養費の対象にならない(医療費267000円を超えていない)
このようになります。この場合は入院費の自己負担は87430円で済むので、
300000ー87430=212570円
が払い戻される形になります。外来の自己負担18000円はそのままです。
また病院にかかった場合、処方箋を発行されて薬局で薬をもらうこともあるでしょう。薬局でもらう薬代は外来の費用に含まれます。例えば病院での外来の医療費50万円、薬局での薬代が保険適応前で10万円だった場合、合計60万円を外来の医療費として、自己負担上限額を計算します。
薬局の窓口での計算は、一つの薬局で同一月に同一の医療機関から発行された処方箋での負担分について合算して自己負担計算します。
高額療養費制度の説明の最初に同一月内に、「同一医療機関」に支払った自己負担額が限度額を超えた時に適応されると説明しました。しかし同一人物が複数の医療機関での支払いが一定額を超えた場合、それらを合算して高額療養費制度の対象にできます。これを同一人合算といいます。
同一人合算は自己負担額が21000円以上の時のみ可能です。
上図の場合は自己負担額15万円と2.4万円の医療費のみ同一人合算できるので、高額療養費制度の対象となるのは50万円+8万円=58万円です。区分ウの場合は自己負担限度額は 80100+(58000ー267000)×1%=83230円 となり、さらに同一人合算されない自己負担1.5万円を別途負担する必要があります。
ここで先ほどの表を見直してみましょう。上限額に「世帯ごと」といった記載があります。

家族に同時にかかった医療費が、それぞれの自己負担額が上限額まで届かなかった場合でも、家族分を合算して1ヶ月の自己負担限度額を超えた場合、高額療養費の支給を受けられます。これを世帯合算といいいます。
ただし世帯合算できるのは、同じ公的医療保険に加入している家族です。例えば夫が会社員で健康保険に加入し、妻がその扶養者である場合などです。共働きの夫婦が、それぞれ別々の健康保険に加入している場合には合算の対象となりません。
※国民健康保険には扶養という概念がありませんが、例えば夫が自営業で妻が専業主婦の場合、これは世帯合算の対象となります。国民健康保険は同じ保険証の番号をもつ家族は世帯合算できます。
また世帯合算できるのは自己負担が21000円以上の場合だけです。

上記の図の場合、世帯合算できるのは夫の自己負担15万円、3万円と、妻の自己負担3万円の医療費です。医療費は50+10+10=70万円 なので、区分ウの場合 80100+(700000-267000)×1%=84430円 が世帯の上限額となります。夫の1.8万円と妻の1.2万円は世帯合算の対象外なので、別途負担する必要があります。
※同一人合算も世帯合算も21000円以上なら、入院も外来も合算できます。
世帯合算した場合は、同一世帯に複数の被保険者がいることになります。この場合、支給される高額療養費は、各人に支給される高額療養費(自己負担分ー自己負担限度額)は、世帯全体に支給される額を、世帯員ごとの自己負担額に応じて按分したものになります。
(ex)上記の図のケースでは世帯全体に支給される高額療養費は
(15万+3万+3万)ー84430=125570円
これを按分して
夫:125570×(15万+3万)/(15万+3万+3万)=107631円
妻:125570×3万/(15万+3万+3万)=17938円
ここまでで高額療養費制度のことはある程度理解できたでしょうか?
高額療養費制度は中身が本当に複雑で、全部理解するのには結構時間がかかります。今回の記事は70歳未満のケースで一旦終了とします。次回の記事では70歳以上のケースを紹介します。

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