脱サラするなら確認しておきたい 任意継続被保険者制度

社会保障制度

先月友人が脱サラして個人事業主になりました。その際に任意継続被保険者になるのかどうか訊ねましたが、そもそもその制度自体知らなかったようでした。すでに退職から20日以上経過してしまっていたので、国民健康保険に加入するしかありません。今回の記事で任意継続被保険者制度について解説しますので、今後もし脱サラすることがあった時は参考にして欲しいと思います。


任意継続被保険者とは健康保険の被保険者であった者が、退職後も一定期間は従前の健康保険の被保険者であり続けられる制度です。以下の要件を満たす必要があります。

・退職日までに被保険者であった期間が2ヶ月以上ある
・資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申請する

これらの要件を満たした場合、退職日の翌日から最長2年間、従前の健康保険の被保険者であり続けられます。ただし従前の健康保険とは異なる箇所もあります。1つ1つ見ていきましょう。

・保険料は全額自己負担
健康保険料は労使折半です。健康保険料は給与から天引きされますが、それと同額の健康保険料を会社が代わりに払ってくれています。任意継続被保険者はそもそも会社に所属していないので、会社が半額を代わりに払ってくれません。単純に今までの倍の健康保険料を納めなくてはならないので注意しましょう。※国民健康保険も全額自己負担です


・出産手当金、傷病手当金がない
健康保険には出産手当金、傷病手当金があります。これが会社員の保障が手厚いと言われる所以ですね。出産手当金と傷病手当金についておさらいしておきましょう。
出産手当金は被保険者が出産により出産日の42日前から、出産日以後56日までの間で給与が受け取れない場合に支給され傷病手当金は病気や怪我で就労できず給与が支払われない場合、最大1年6ヶ月まで支給されます(3日間の待期期間が必要です)。
どちらも支給される日の属する月の前月までの継続する12ヶ月の標準報酬月額の平均値を30で割った金額の、3分の2の金額を1日につき支給します。

どちらも会社から給与が支払われない場合に支給されます。任意継続被保険者は会社からの給与がそもそもないので、出産手当金・傷病手当金は支給されないというわけです。
※ただし継続して1年以上被保険者であった者は、資格喪失の際に出産手当金・傷病手当金を受けていた場合は、引き続き受けることが出来ます。


・扶養者制度がある
これが任意継続被保険者にする最大のメリットです。健康保険には扶養者制度があり、国民健康保険には扶養者制度がありません。ここで扶養者制度について確認しておきましょう。
被扶養者は「被保険者によって主に生計が維持されている」親族であり、被扶養者は保険料負担がなく、健康保険に加入できます。被扶養者になれる要件は以下のようになります。

脱サラして自営業者になったとしても、扶養対象者がいる場合は、最大2年間は扶養者は保険料負担が無く健康保険の被保険者となれます。扶養家族がいる場合は任意継続被保険者を選択すべきでしょう。


・保険料は有利になる場合もある
任意継続被保険者の健康保険料は以下のいずれかの低い方で計算されます。

①退職時の標準報酬月額
②加入する健康保険の全被保険者の前年の標準報酬月額の平均値に相当する標準報酬月額

②については組合けんぽの場合は所属する健康保険組合の全被保険者の前年の標準報酬月額の平均値に相当する標準報酬月額になります。
協会けんぽの場合は全ての全国健康保険協会の被保険者の前年の9月30日時点の標準報酬月額の平均値に相当する標準報酬月額になります。(令和4年度は30万円)

これに保険料率をかけて保険料が算出されます。保険料率は組合けんぽでは組合ごとに、協会けんぽでは都道府県ごとに保険料率は異なります。
※都道府県ごとの保険料率はこちらで確認して下さい ⇒ 全国健康保険協会 令和4年度保険料額表
もともと所属する健康保険の被保険者全体より高い給与をもらっていた人は、任意継続被保険者になることで保険料が下がる可能性がありますね。


ここまでで任意継続被保険者制度は理解できたでしょうか?
ここで1点注意が必要です。任意継続被保険者制度は2022年1月に改正されました。この改正点について見てみましょう。

・任意脱退が可能になった
従来の任意継続被保険者制度は一度選択すると、定められた事由に該当しないと脱退できませんでした。資格喪失事由は以下の6つでした。

①任意継続被保険者となった日から2年を経過したとき
②保険料を納付期日までに納付しなかったとき
③再就職して他の健康保険に加入したとき
④後期高齢者医療の被保険者資格を取得したとき
⑤船員保険の被保険者となったとき
⑥被保険者が死亡したとき

これに「任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出て、その申出が受理された日の属する月の末日になったとき」が追加されました。つまり希望すれば任意に脱退が可能となることになります。これは被保険者にとっては選択肢が広がるだけなので有利に働いています。

・組合の規約により、従前の標準報酬月額とすることが可能となる
前述したように任意継続被保険者の保険料は、退職時の標準報酬月額、または加入する健康保険の全被保険者の前年の標準報酬月額の平均値に相当する標準報酬月額の、どちらか低い方の標準報酬月額を元に算出します。
しかし組合によっては規約により、たとえ退職時の標準報酬月額が組合の平均の標準報酬月額より高い場合であっても、退職時の標準報酬月額により保険料が算出できるようになります。
※この制度を利用できるのは組合けんぽだけです。協会けんぽでは利用できません
組合けんぽの被保険者は、任意継続被保険者になる前に自身の組合の規約を確認しておくべきでしょう。


ここまでをふまえて、会社員から自営業者になる場合に、任意継続被保険者を選択すべきか見てみましょう。

まず扶養者がいない場合(本人のみ)の場合です。
国民健康保険にした場合と比べて保険料がどうなるか確認して決めます。
国民健康保険料がどう決まっているか、詳しく書くと長くなってしまうので、これは別の記事にしたいと思います。今回は簡単にシュミレーションしてくれるサイトを紹介しておくので、そちらでシュミレーションしてみて下さい。
 ⇒ 国民健康保険料シミュレーション
続いて自身の健康保険料が任意継続被保険者にしたら、どうなるか確認します。
協会けんぽの人は退職予定時期の標準報酬月額を確認して、全国健康保険協会 令和4年度保険料額表を見て、お住いの都道府県の保険料率を調べて計算します。(ただし令和4年度の標準報酬月額は最大で30万円ですね)

組合けんぽの人は退職予定時期の標準報酬月額を確認して、組合の保険料率を調べます。ここで注意しなくてはならないのが、組合が規約で”退職時の標準報酬月額が組合の平均の標準報酬月額より高い場合であっても、退職時の標準報酬月額により保険料が算出する”ように定めているか確認しておかないといけません。特に高給取りだった人は要注意ですね。この特約が無かった場合は、高給取りの人は国民健康保険に比べて保険料が安くなる可能性大です。

次に扶養者がいる場合ですね。多くの場合は任意継続被保険者を選択すべきでしょう。前述したように扶養者制度があります。配偶者の健康保険料を支払わなくてよいのは大きいです。ただし年収が低かった場合は国民健康保険の安くなるケースも多いので、念のため先ほどと同様の手順で確認しておくことをお勧めします。

最後に追伸です。
国民健康保険には軽減・減免があります。これは解雇等による会社都合の退職、病気や介護等の正当な理由による自己都合退職、災害等により生活が著しく困難となった場合などに、国民健康保険料が軽減されたり、免除されたりする制度です。もしこれに該当するようなことがあったら、まよわず国民健康保険を選択すべきです。これも詳しくはまた別記事で紹介したいと思います。

脱サラ後はみんな国民健康保険料の高さに驚きます。健康保険料も給与から天引きされるため、労使折半されていたことすら知らない人も多いです(いかに会社に守られていたかを実感します)。健康保険料は多く支払っても得することは1つもありません。無駄な保険料を支払わないようにしましょう。何度も書きましたが、知識は力です。知ることによって損をしない、そんなお手伝いが出来ればと思います。

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