前回の記事で健康保険法の変更による傷病手当金の支給期間の変更について書きました。健康保険法と一緒に、今年の4月1日から厚生年金法も改正が行われています。今回の記事では厚生年金法の改正による在職老齢年金の受給額の見直しと、繰り上げ支給・繰り下げ支給の変更点について解説します。
・在職老齢年金の受給額の変更
まずは在職老齢年金について知っておきましょう。在職老齢年金とは老齢厚生年金の受給権を取得した者が、厚生年金保険の被保険者として働く場合、年金と給与等の合計が一定額を超えると、老齢厚生年金の受給額が減額または支給停止される制度です。例えば65歳で年金の老齢厚生年金受給権を取得したのち、まだ会社勤めをして収入がある場合です。「厚生年金保険の被保険者として働く場合」なので、年金受給後に自営業で働く場合や、パートなどで健康保険・厚生年金保険の被保険者の適応にならない範囲で働く場合は該当しません。この場合は年金は満額支給されることになります。
※健康保険・厚生年金の適応については過去記事を確認して下さい ⇒ 短時間労働者の健康保険、厚生年金の適応の拡大について
この場合、収入については以下のもので判断します。
収入=基本月額+総報酬月額相当額
基本月額とは老齢厚生年金の月額を表します。
※65歳未満の場合は特別支給の老齢厚生年金(加給年金を除く)
総報酬月額相当額とは、その月の標準報酬月額+直近1年の標準賞与額÷12 を指します。
おおむね毎月の厚生年金と、昨年の賞与を加味した給与の合計額といったところです。これが一定の額を超えると、老齢厚生年金の支給が一部または全部が支給停止となります。

65歳未満か65歳以上かで支給停止となる金額が異なり、また65歳未満の支給停止額はかなり覚え辛い計算式になりますね(私もしょっちゅう忘れます)。65歳以上の場合は基本月額と総報酬月額相当額が47万円を超えたら、その半分が支給停止となるので、比較的覚えやすいです。
これが2022年4月1日の改正により、60~64歳の場合も65歳以上と一本化され、基本月額+総報酬月額相当額が47万円を超えた時に支給額が減額となります。なおこの47万円という数字については、毎年見直されます。※物価や賃金の水準の変動が生じるためです

例えば総報酬月額相当額が35万円の人が、本来の老齢厚生年金の基本月額が15万円だったとすると、
(35+15-47)×1/2=1.5 つまり1.5万円の老齢厚生年金の支給が停止され、支給される老齢厚生年金は15ー1.5=13.5万円となるわけですね。
・在職定時改定の導入
老齢厚生年金はそれまでに納めた保険料を年金額に反映しています。しかし厚生年金保険の被保険者である間は改定されず(つまり65歳以上で納めた年金保険料は、在職中は年金額に反映されず)、退職により被保険者資格を喪失した時に、今までの分をまとめて年金額に反映させていました。
しかし今回の改定により、65歳以上の人は在職中であっても、年金額の改定が行われます。これは毎年9月1日を基準日とし、直近1年間の標準報酬額を年金額に反映し、10月分から改定された年金が受けられることになります。在職老齢年金を受給しながら、おさめた年金保険料が年金受給額に反映される形になりますね。

在職老齢年金の受給額の変更も、在職時定時改定の導入も、どちらも年金を受給しながら働く人にとっては朗報です。労働力人口の減少、平均寿命の増加に伴って、より長く働ける社会が必要となります。そのために長く働いてくれる人にもそれなりの恩恵がないといけません。そのための制度改定の1つが上記のものになります。
・繰り上げ支給・繰り下げ支給の選択肢の拡大
年金は原則65歳からの支給になりますが、これは繰り上げ支給(65歳より早く支給してもらう)、繰り下げ支給(65歳以降に支給してもらう)が可能です。
2022年3月までの制度を確認しておきましょう。
繰り上げ支給⇒1ヶ月につき0.5%減額
繰り下げ支給⇒1ヶ月につき0.7%増額(上限年齢は70歳)
上記のようになっていました。例えば60歳から受給すると 0.5×60ヶ月=30%減額 となり、これが一生涯続きます。70歳から受給すると 0.7×60ヶ月=42%増額 となり、これも一生涯続きます。どちらを選ぶかはその人次第です。60歳で完全にリタイアしたい人で、年金受給額とその他の収入(株式の配当金や不動産所得)で十分生活できるなら、繰り上げ支給すべきでしょう。
※ただし繰り上げ支給すると障害基礎年金や寡婦年金の受給権を失うデメリットはあります
一方、65歳以降も働き十分な収入の見込める人は繰り下げ支給するとよいでしょう。
これが2022年4月1日より次のように改正されました。

繰り下げ支給による減額が1ヶ月0.5%から0.4%に下がり、また繰り下げ支給の上限年齢が75歳に引き上げられます。繰り下げ支給により最大 0.7×120ヶ月=84% 増額となります。
繰り上げ支給を選択するか、繰り下げ支給を選択するかは人によりますが、どちらにしても改正によるデメリットは少ないです。繰り上げ支給しても減額は少なくなりますし、繰り下げ支給においては繰り下げの期間の選択幅が増えただけです。
※ただし繰り下げ支給により加給年金を受け取れなくなる可能性はあります。加給年金は厚生年金の加入期間が20年以上ある場合、配偶者が65歳になるまで、あるいは子供が18歳になるまで支給される家族手当みたいなものです。支給を繰り下げている期間中は加給年金は支給されませんので、加給年金の対象になりそうな人は、繰り下げ期間中に加給年金の受給要件が過ぎないようにしましょう。
なお他のサイトのシュミレーションでは65歳からの受給と比較すると、繰り下げ支給により70歳から年金を受給した場合、81歳より長生きすれば総支給額が上回るこのことです。75歳から年金を受給した場合、86歳より長生きすれば総支給額が上回るようでした。実際に何歳まで生きるかは分かりませんし、その人の健康状態に大きく左右されます。しかしある程度の予測は可能です。
厚生労働省が公開している簡易生命表を見れば、ご自身が後どれくらい生きられるかの目安になると思います。簡易生命表の一番右に平均余命が載っています。
⇒ 令和2年簡易生命表(男) 令和2年簡易生命表(女)
※平均余命とはある年齢の人が平均で、あとどれくらい生きられるかを示したものです。平均寿命とは異なるので注意しましょう。
先述したような労働力人口の減少、平均寿命の延長、超少子高齢化などネガティブニュースが日常的に飛び交っていますが、国もそれなりに対応策は出しています。今回の健康保険法・厚生年金法の改正は国民にとってメリットが大きいです。マスコミはネガティブニュースを報道して視聴率を取りますが、正しく制度を理解すればメリットもちゃんと見えてきます。これらの制度は正しく理解して、ご自身のライフプランに役立てて下さい。

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