事業継承の円滑化 ①種類株式とは

その他

先日私の知り合いで会社の代表の座を継承した人がいました。お父様が創業者であり、息子さんが後継者として代表を継承したわけですね。この時に発生するのが株式の移転です。上場企業は違いますが、中小企業は多くがオーナー社長であり、大抵は後継者に株式を移転することになります。そしてこの株式の移転が結構難しい問題であり、後継者がまだ経営者として成熟しきっていない場合は大半の株式を移転してしまうと、会社が正常に機能しないかもしれません。また資金集めのために第三者に株式を移転してしまうと、下手をすれば経営権を奪われかねません。それらの問題には種類株式を活用するのが有効な場合もあります。今回の記事では種類株式と、その使い方について見ていきましょう。

まず株式は普通株式とは権利内容が異なる株式を発行することが可能です。
そして権利内容の異なる2種類以上の株式を発行する場合、通常の株式と異なる株式を種類株式といいます。種類株式は9つの異なる権利内容を設定することが可能です。いくつかの権利を重複して付与したり、あるいはいくつかの権利を制限することが可能です。それでは1つ1つ見てみましょう。


・剰余金の配当に関する株式
配当について優劣が規定されている株式です。ある種の株式に優先して配当し、その後普通株式に配当をし、最後に配当後の剰余金からしか配当を得られない株式を設定することが可能です。(配当が全く得られない株式の発行も可能です)
※このように有利な条件の株式を優先株不利な条件の株式を劣後株といいます。優先株、劣後株は余剰金の配当だけでなく、後述する残余財産の分配に関する種類株で発行が可能となります。

優先株は投資家にとって有利な制度であるため、企業側は資金調達がしやすくなります。また配当が優先されている代わりに、議決権が制限されていることがほとんどですので、経営権を維持したまま資金調達が容易にできます。
劣後株は投資家にとって不利な条件なので、一般投資家が購入することはほとんどありません。通常は当該会社の経営者のために発行します。これによって経営権を経営者に集中させ、さらに既存の株主の配当を減らさないことが可能となります。

・残余財産の分配に関する株式
会社が解散した時、残余財産は各株主が保有する株式数に応じて分配されます(会社に財産が残っていなかった場合は、残余財産の分配は行われません)。
残余財産の分配についても優先株、劣後株の発行が可能です(残余財産の分配が行われない株式の発行も可能です)。
ただし剰余金の配当、残余財産の分配の両方の権利が無い種類株式は認められていません。
優先株、劣後株の使い方は剰余金の分配のケースとほぼ同じです。

・議決権制限株式
株主総会における全ての事項について議決権を行使できない、または一部の事項について議決権を行使できない株式です。 会社経営に興味がなく、ただ配当金や売却益のみを欲する株主には適しています。また会社としても経営権を分散させることなく、資金調達が可能となります。前述したように剰余金の配当における優先株に、議決権制限を設けているケースが多いです。
ただし会社法115条により、公開会社ではでは議決権制限株式の総数は、発行済株式総数の2分の1を超えてはならないとされています。

・譲渡制限株式
譲渡するのに発行会社の承認が必要になる株式です。株式が望まない第三者の手に渡り、経営権を奪われるのを防ぐ効果があります。
全ての株式に譲渡制限を定めた会社を非公開会社といい、それ以外の会社を公開会社といいます。(一部の株式にのみ譲渡制限をかけている状態なら公開会社)

・取得請求権付株式
株主が会社に対して、自身の保有する株式の買い取りを請求できる株式です。株式の買い取りが保証されているものと言えます。会社はこの請求を拒否できず、株主に対して現金で買い取る他に、普通株式、社債、新株予約権などを代わりに交付することもできます。
非上場株は流通性が少ないため、株主にとっては現金化しづらいリスクがあります。しかし取得請求権付株式にすることによって、発行会社による買い取り保証ができ、株主の出資リスクを軽減します。

・取得条項付株式
一定の事由が発生したことを条件に、株主からその株式を取得することができる株式です株主の同意なしに会社が強制的に取得することができます)。取得請求権付株式のちょうど逆ですね。
取得請求権付株式と同様に、株主から現金で買い取る他に、普通株式、社債、新株予約権などを代わりに交付することもできます。
一定の事由とは定款で設定できます。例えば後継者の候補者が複数人いて、現段階では決まっていないとします。あらかじめ候補者全員に取得条項株式を渡しておき、後継者が決まったら、後継者の株式を普通株式に転換し、その他の者の株式を強制的に買い取ったり、社債に転換することで、後継者に経営権を集中させられます。
既に株主が保有している株式を取得条項付株式に転換する場合は、株主平等の原則から、全ての種類株主の同意が必要となります。

・全部取得条項付株式
株主総会の特別決議により、全ての株式を会社が取得できる株式です。
既に株主が保有している株式を全部取得条項付株式に転換する場合、取得条項付株式と異なり、株主総会の特別決議による決定で実行可能です(反対株主は株式買取請求権を行使できます)。

※取得条項付株式の発行は株主全員の同意が必要ですが、全部取得条項付株式の発行は株主総会の特別決議で発行可能です。取得する場合は取得条項付株式は、一定の事由が発生した場合に会社の意志のみで行えるので、どちらも一長一短です。

全株式を全部取得条項付株式に変換すれば、株主総会の特別決議により、会社にとって都合の悪い少数株主を排除することができます。

・拒否権付株式
黄金株とも呼ばれ、株主総会における重要事項(合併、事業の譲渡、定款変更、取締役の選任・解任など)の決議を否決する権利をもった株式です。具体的には株主総会において決議すべき事項において、株主総会の決議の他に、拒否権付株式を保有する株主による種類株主総会の決議が必要となります。
拒否権付株式を1株だけ発行してそれを持っているだけで、株主総会の重要事項の決議に拒否権を発動されられます。これは敵対的買収による強い防衛策となります。
ただし株主平等の原則に反するとして、上場企業が拒否権付株式を発行した場合、上場廃止になることがあります。

・役員選解任権付株式
種類株主総会で役員(取締役・監査役)の選任、解任を行うことが出来る株式です。この株式が発行されると、通常の株主総会で役員の選任、解任はできなくなります。つまり株主総会から役員の選解任権を奪い取ることになります。
拒否権付株式と同様に、この株式を1株だけ発行して保有しておくだけで、例え引退しても役員の選解任権を保持した状態になります。
なお公開会社と委員会設置会社は役員選解任権付株式を発行することができません。


9つの種類株式の内容は分かりましたでしょうか?次回の記事でこの種類株式を上手く活用して、事業継承を円滑にすすめる方法を紹介したいと思います。

にほんブログ村 その他生活ブログ マネー(お金)へ
にほんブログ村

記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。

自由になりたい薬剤師の学習ノート

メインブログもよろしくお願いします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました